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ノーベル平和賞推薦の経過報告

 

 20011012日、ノルウエー・ノーベル賞委員会は、国際連合とコフィ・アナン国連事務総長にノーベル平和賞を授賞すると発表しました。国際テロなどの世界平和にたいする挑戦を重く見た結果だと思います。我々の推した家永三郎さんは、惜しくも授賞からもれました。しかしながら、アナン氏と国連の授賞によって、自由、民主主義、国際平和のための家永さんの長年の戦いと全く同一の主義主張がここに確認されたと考えます。

 

 昨年12月、我々が家永さんを平和賞候補に推すことを呼びかけた時、きわめて多くの人々がこれに応じてキャンペーンに参加しました。期間は、実質的には1ヶ月にみたなかったにもかかわらず、国内からは国会議員3人を含む80名の方が推薦の輪にくわわりました。国外では、閣僚、国会議員(含むヨーロッパ議会)など14名、大学教授144名が推薦に参加しました。国籍は中国、韓国、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、スイス、オーストラリアにわたっています。そのうちにはハーバート・ビックス、ノーム・チョムスキー、ブルース・カミングス、ジョン・ダワー、ピーター・ドゥース、ジョシュア・フォーゲル、リチャード・ミネア、テッサ・モーリス・スズキ、ジョン・プライス、イマニュエル・ワーラースタインなどわが国でも良く知られている研究者が含まれています。中国からは2人の全国人民代表者大会代議員のほかたくさんの研究者が加わりました。韓国には時間的に働きかける余裕がなかったのですが、それでも鄭在貞さんほか何人かの方が加わりました。家永さんの多年にわたる自由と民主主義、平和のための学問的な戦いが世界の良心的な知識人、平和活動家、人権活動家に良く知られ、高く評価されていることの証しであります。

 

 とくにこのキャンペーンを我々がはじめたのはちょうど戦争の美化、歴史の歪曲を特色とし、自国中心のナショナリズムを鼓舞しようとする歴史教科書が検定のために提出され、わが国の世論はもちろん近隣諸国からもきびしく批判されつつある時でした。当時日本政府は公正な検定を約束したにもかかわらず、表面的な修正だけでこの教科書を合格させました。しかし来年この教科書を学校で使用するのは、わずか0.03%にすぎません。我々は家永さんの多年にわたる戦争の真実の究明と普及、教科書訴訟不当な検定にたいする裁判闘争が日本の市民の間にも深い影響をおよぼしていることをあらためて感じました。

 

 ノーベル平和賞が始まったのは今から100年前、1901年のことでした。その6年後、1907年には戦争と平和の問題に関してもうひとつ重要な進展がありました。人道の観点から戦争中の軍隊の行為を規制する「陸戦の法規慣例に関する条約(ハーグ条約)」が制定されたことです。15年戦争中に日本軍はしばしばこれらの国際法に違反する非人道な行為無差別爆撃、南京虐殺、731部隊、「従軍慰安婦」等を行いました。家永さんはこれらの行為の違法性を事実に基づいて明らかにするとともに、教科書に正しく記述され、子どもたちが過去の過ちに学びながら国際法と人権に基づく平和な未来に生きてゆけるようにしたいと願ったのです。

 

 105日、ニューヨークとワシントン(D..)での悲劇的出来事に答えて、8人のノーベル平和賞受賞者が共同声明をだしました。それは何らかの政治的、道義的意図の有無にかかわらず、無差別に無辜の市民を殺害するというテロ活動への怒りと、犠牲者の家族と友人にたいする深い哀悼の念、そして、報復にさいし軍事行動を控えるよう合衆国政府に訴えたものでした。8人が強調したのは、このような野蛮な行為に責任あるものを裁判にかけるために国際法の現存の基準が用いられるべきだということでした。また今回の授賞に当たってノーベル賞委員会は、アナン氏の業績のひとつに「加盟国が主権をたてに違反行為をすることは認められないことを明確にした」ことをあげ、さらに国連についても「世界の平和と協力を実現するための交渉の道は、国連を通じてしかあり得ない」と断言しています(平和賞授賞発表文)。

 

 たしかに家永さんの授賞の機会は逃しましたが、以上のような事実を通じて家永さんの志は十分に世界に受け継がれ生かされていると我々は考えています。そのことは世界の家永さんにたいする評価をいっそう高めるに違いないと我々は確信しています。

 

 以上、報告を兼ねて我々の気持ちを申し上げました。なお、海外との連絡については、アメリカのリチャード・ミネア、マーク・セルドン、ホンコンのポール・ハリス、カナダの鹿毛達雄、列国遠、ニュージーランドの野崎よし子の各氏に尽力していただきました。そのことも記して感謝に代えたいと思います。

 

20011012

 

家永三郎さんを平和賞候補に推薦する会

荒井信一(代表) 石山久男  尾山 宏  小林 和

君島和彦  俵 義文